コラム

世界の子どもたち アメリカ「チルドレン・ミュージアムの存在意義」

文・ダグラス・ジママン / 写真・中西あゆみ

あそびのもり 2017年 49号より

一般の博物館とは一味違う「チルドレン・ミュージアム」。子どもたちがあそびを通して学び、楽しみながら創造力を養う場所です。好奇心をくすぐるさまざまな仕掛けが五感を刺激し、全身で体感しながら新しいことを発見し、探求する。その体験から、将来、世の中に出ていくための知恵や知識を得るのです。アメリカ全土には、チルドレンズ・ミュージアム協会に加盟するミュージアムが326カ所もあります。各施設工夫を凝らし、そこにしかない特色があります。今回はそのなかから4施設をご紹介します。

サンフランシスコ/ベイエリア

Children's Discovery Museum of San Jose
成功する秘訣は「砂場でどれだけうまく遊べるか」

「チルドレンズ・ディスカバリー・ミュージアム・オブ・サンノゼ」の館内には、近所で発見された14000年前の実際のマンモスの骨が展示され、窓の外に実物大のマンモスを臨む環境で古代生物について学ぶことができる。

多くのIT企業が集まるシリコンバレーの中心都市サンノゼにある「チルドレンズ・ディスカバリー・ミュージアム・オブ・サンノゼ」は、「芸術と科学の交差点」。

「子どもが興味をもっていることへの探究に基づいた学習こそが、その子の学ぶ力や挑戦する能力を養うという基本的な信念を私たちはもっています」とCEOマリリー・ジェニングズさんは言います。「私たちが取り組んでいるのは、芸術や科学、人間性を重視するのと同時に、子どもの好奇心をサポートすること。子どもが自ら質問し、興味があるものを追い求め、探究することです」。また、物を手で触れることで生じる相互作用の重要性を強く信じるこのミュージアムでは、 手で触れ 、音を聞き、全身で振動を感じ、遊びながら学ぶことができる仕組みを提供しています。

ある家族の寄付金とサンノゼ・ウォーター・カンパニーなどの支援によってつくられた水遊びのエリアには子どもたちを驚かせる仕掛けがある。

入場料は1人13ドル(約1460円)ですが、「オープンドア・ポリシー」により、お金がない人は無料で、あるいは払えるだけの金額で施設を利用できます。ここには、多種多様な子どもたちが訪れます。「サンノゼはこの40年ずっと少数民族が多数を占める町です。このポリシーを提供することで、経済的にも多様な地域社会に貢献できます」。

  • 1ドル112円で計算

子どもたちが技術や科学の分野で成功する秘訣は、チームで共同して活動する機会をもてるかどうかだとジェニングズさんは言います。「それは砂場でどれだけうまく遊べるかということなのです」。人は経験を積みながら、より大きな地域社会における自分の役割を知るようになります。チームワーク、広い視野、コミュニケーションなど、それらこそがここで学ぶことだと言います。「成功するためのツール。シリコンバレーに暮らす多くの人々は、団結したときに革新が起こると肌で感じています。このミュージアムでは常にその光景を見ることができます。あそびを通し、子どもたちが互いに協力し合い、同じ体験をしながらともにゴールを目指すことは、チームワークについて学ぶのに最適な方法なのです」。

Bay Area Discovery Museum
「何を得て欲しいか明確な意図がある子ども主導のスペースをつくることは、まさに芸術」

元陸軍兵舎がリフォームされてできた「ベイエリア・ディスカバリー・ミュージアム」は大自然に囲まれ、館内からはゴールデンゲート橋と対岸にはサンフランシスコの町を臨むことができる。

ベイエリアのサウサリート市にある「ベイエリア・ディスカバリー・ミュージアム」の教育的主眼は、決まった回答がない、子どもたち主導のあそびの機会をつくること。

「それは大変重要なことですが、私たちがこの2、3年で行ってきたことは、自分たちのリサーチ・センターを使って子どもの発育や神経科学的な発育における最新の研究を、認知発達や教育に応用すること。そして、子どもたち自身が主導で探求して学ぶ行動を、予測に基づくリサーチにどう組み込むかを考えること」だとCEOケァリン・フリンさんは言います。

理数系を重視したSTEM教育を軸に創造力を養うワークショップでは、3Dプリンターを利用して物づくりを体験する。プロセスの理念には「失敗する」ことも含まれている。

どのように空間がデザインされ、子どもたちが熱中し、チームにまとまることをどう後押しするかに至るまで、多くの意図的な意味合いがあると言います。教育戦略課副会長のエリザベス・ルードさんは「非常に思慮深い方法で、子どもたちに何を得て欲しいか明確な意図がある子ども主導のスペースをつくることは、まさに芸術です」と言います。

ここでは、研究結果に基づいた高品質な子どものための学び環境をつくるために、6つの主要構成要素 「CREATE」(頭文字)を新たな枠組みとして提唱しています。

1 Child directed (子ども主導)
人は内面的に動機付けられたときにもっとも想像力が生まれる。

2 Risk friendly (失敗を恐れない)
失敗するかもしれないことをやってみるよう励ます。

3 Exploratory (探求)
体験して学ぶ。子どもが自然に遊び、体験する探求が創造力につながる。

4 Active(活動的)
体を動かす機会があるほど創造的洞察力がより深まる。

5 Time for imagination(想像するための時間)
より多くごっこ遊びをした子どもは、大人になってからもより創造的である。

6 Exchange of ideas(意見交換)
話し合い、協力し、異分野にまたがって学ぶことが脳の発達に良い。

「ベイエリア・ディスカバリー・ミュージアム」では、地元ベイエリアの特徴をいかした仕掛けがある。トンネル内からは水槽で泳ぐ魚を見ることができる。

自らを「STEMと創造力の交差点」と表現する「ベイエリア・ディスカバリー・ミュージアム」では、3Dプリンターを使った工作なども。「STEM教育の核心は理数系が子どもたちの将来に大きく関わっているという認識」だと言う。

「私たちの使命は、研究結果を、創造的な問題解決を促す早期学習に応用することです。もっとも重要視していることは、創造力と創造的な問題解決力です」フリンさんは言います。「私たちはミュージアムを、研究結果を実践する場所と考えていますが、さらに大きな使命は、保護者や教育者たちを感化し、どのように子どもたちと触れ合うべきなのか知ってもらうことです」。

ニューヨーク

Children's Museum of the Arts
「創造的な問題解決力こそが一番支援したいスキル」

「チルドレンズ・ミュージアム・オブ・ジ・アート」には「クレイ・バー」と呼ばれる粘土細工をするためのバーカウンターがある。カウンター内にはアーティストが立ち、子どもたちにつくり方を教える。この日のお題は「猫」。

マンハッタンの「チルドレンズ・ミュージアム・オブ・ジ・アート」の使命は「アーティストと並んで作品を制作する場を提供し、子どもたちとその家族に、芸術の革新的な力を知ってもらうこと」。ミュージアムには「つくる、見る、シェアする」という考えを具体化する教育学があります。フロアには、ニューヨークで活躍するプロの芸術家である教員アーティストがいて、子どもたちはアーティストや親の助けを借りて作品をつくり、保護者の参加も歓迎されます。

「子どもが一緒にここを訪れた大人とともに、作品を制作するというコミュニケーションとつながりが大変重要です」と、専務取締役バーバラ・ハント・マクラナハンさんは言います。もっとも悲しい光景は、子どもが芸術体験をしている間、親は端にただ座っていること。「もし大人が一緒に参加していれば、より高い次元の学びの体験になります。ここは家族みんなが歓迎される安全な場所です。批判主義はありません。楽しんで作品をつくってもらおうという思いがあるだけです」。

ミュージアムで実施されるプログラムには決まった答えがない。子どもたちは自由に作品をつくることができる。

ミュージアムでは、STEM教育にARTを加えた「STEAM教育」に注力しています。現代アートでは、多くのアーティストが作品に数学と科学を取り入れているとコミュニティ・プログラム・ディレクターのミシェル・ロペスさんは言います。プログラムに参加している子どもたちは、ただボタンを押すのではなく、コンセプトを学ぶために作品をつくっているのです(一般的なミュージアムではボタンを押して解説を聞く)。これらの活動はプロジェクトをベースにした学びです。子どもたちがどのように考え始めるか、作品をどう彼らの探求に入れ込むか。「子どもたちに大きな質問をしてみましょう。彼らは答えに辿り着きます。ただし少しばかりの工夫が必要です」。

  • STEAM教育(Science=科学、Technology=技術、Engineering=工学、Art=アート、Mathematics=数学という、理数系にArtを加えた教育法)

そしてロペスさんは「創造的な問題解決力こそが、私たちが一番支援したいと考えているスキルです。制限をもつことは時には悪いことではなく、創造的な問題解決につながります」と結びました。

「アート作品を共につくることで、創造力は私たちを特別な存在にさせ、誰も他の誰かより優れているわけではないと理解できる」と専務取締役マクラナハンさんは言う。

Brooklyn Children's Museum
「文化的体験は生涯にわたる文化的感性への入り口」

「ブルックリン・チルドレンズ・ミュージアム」の地下階へのトンネル。

アメリカ最古の子どもミュージアム「ブルックリン・チルドレンズ・ミュージアム」は、1899年の開館以来、子どもたちが直に触って体験する学びの重要性を知らしめた革命的なミュージアムです。「本館の指導者だったアナ・ビリングス・ギャラップは、幼児教育における真の先駆者でした。子どもたちは実際に、剥製の動物や標本を見ることができました」展示解説ディレクターのハナ・エルウェルさんは言います。「ミュージアムといえばケースに収められた展示物を想像しますが、ギャラップの考えは、ありふれた方法で芸術品に触れるのではなく、子どもたちが手に取り触ることのできる収蔵品を集めるというものでした」CEOステファニー・ウィルチフォートさんは言います。

収蔵品のひとつを見せるCEOウィルチフォートさん。収蔵品の多くは1930年代及び70年代にブルックリン美術館から寄付されたと言う。

ミュージアムにはニューヨーク固有の生きた動物も展示され、動物そのものと動物を傷つけないことの大切さを教える狙いがある。

ミュージアムのあるニューヨーク市ブルックリンは多様性に富み 、昔から正統派ユダヤ教徒とカリブ海地域出身の移民が多く暮らしています。ここは、都会の子どもたちが3万点を超える展示物、収蔵品、生きた動物と触れ合う場所です。「私たちの収蔵品は、一般的な博物館のように保存を目的としているものではありません。教育を目的としているのです」ウィルチフォートさんは言います。さらに「ここは家族で初めて文化的体験をする場所です。この体験こそが、さらなる文化的体験や生涯にわたる文化的感性を得るための入り口になると私たちは信じています」と続けます。

また、「自然の好奇心を育むことは、このミュージアムで行う活動の根底にあります」エルウェルさんは言います。「子どもたちに、世界に対する自分自身の知識と好奇心を育んでもらいたいのです」。

特別展示室では一定の期間毎に展示内容が変わり、飽きのこない工夫がされている。

「ブルックリン・チルドレンズ・ミュージアム」には毎年40万人をこえる人々が訪れる。

子どもたちやその家族が価値あるつながりを実感することのできる体験を提供したい。さまざまな異文化を提示し、異なる考え方や、文化、背景を相互に尊重し理解することにつなげたいとウィルチフォートさんは言います。そして、「私たちの役割は、来館者の親子にどう考えるべきかを伝えることではありません。みんなが自分の意見をもち、自身の権限は自分でもっていることを知るためのツールを得ることを手助けしているだけなのです」と語ってくれました。