MAGAZINE

自分の「好き」をとことん貫こう!④

人間には生まれながらに
「利他」の精神が
備わっている

#探究学習#利他#あそび

『自分の「好き」を見つけ、わくわくと夢中になる喜び。その大切さを実感する一方で、「好き」を貫くことが、ときとして「自分勝手」「わがまま」と捉えられることも。
自分の好きを追究する「利己」は、他者の利益を願う「利他」と共存できるのでしょうか。
京都大学で比較認知科学を研究する山本真也先生にお話を伺いました。

山本真也先生京都大学
人と社会の未来研究院教授

京都大学大学院理学研究科修了。チンパンジーやボノボなどを中心とした比較認知科学を通じ、ヒトの社会的知性の進化を探求。ヒトと動物の共生社会の実現に向けた取り組みも。2児の父。

京都大学大学院理学研究科修了。チンパンジーやボノボなどを中心とした比較認知科学を通じ、ヒトの社会的知性の進化を探求。ヒトと動物の共生社会の実現に向けた取り組みも。2児の父。

人間には生まれながらに「利他」の精神が備わっている

物を落としたら、小さな子どもが拾ってくれた。そんな経験が一度はあるでしょうか。2000年代にドイツで行われた研究によると、1歳半頃から幼児の自発的な手助け行動が見られるという結果があります。手がふさがって物が拾えない、ドアが開けられないなどの困っている様子を大人が見せると、自分から進んで手助けしようとするのです。
比較対象として挙げられるのがチンパンジーの行動研究です。チンパンジーは、相手が困っているだけでは助けようとしません。相手から「それを取ってくれ」とはっきりとした行動で要求されて初めて、助ける行動をとります。自発的に助けるか、助けないか。これは、大きな違いです。人間には、他者を手助けする性質、「利他の精神」が生まれながらに備わっていると考えられています。

助けた相手の喜びが、自分の喜びになる

さらに人間の場合、他者の目も影響します。たとえば、先生が見ているからいい子に思われたくて親切にする。この場合、自発的な手助けとの違いはあるのでしょうか。自分の内なる動機に基づく手助けを「内発的利他」、他者の目を気にした手助けを「外発的利他」とすると、自発的な手助けを駆り立てる心の働きには、ふたつの可能性が考えられます。

ひとつは共感性です。人間は、相手が困っていると自分のことのように感じ、手助けをしようとします。さらに助けた相手の喜びが、自分の喜びとして感じられるのです。この喜びや笑いといったポジティブな情動の伝染は、人間の大きな特徴だと言われています。

もうひとつは、「間接互恵性」がもたらす評判社会によるものです。たとえばAさんがBさんを手助けします。するとその評判を聞いたCさんは、Aさんを助けてあげたくなる。Aさんは、Bさんから直接お返しを受けなくとも、第三者であるCさんから親切にされるというしくみです。私たちの暮らしは、この評判システムのおかげで協力社会として成り立っています。一見、打算的な行動に感じますが、社会において他者の目があるのは当然のこと。さらに、その他者によって行動が変容するのも自然なことです。むしろ、第三者とも喜びを分かち合えるのは、人間社会ならではの性質だと思います。

「楽しい」や「わくわく」は人間には自然に伝わる

伝染はポジティブな情動だけではありません。何かに熱中し、楽しく取り組む姿勢もまた周囲に広がっていきます。子どもが「自分の好き」を貫くことは、自分勝手さやわがままにつながるどころか、本人はもちろん周囲にも良い影響を与えてくれるのです。

友だちが何かに楽しそうに打ち込んでいると、周りの子どもたちも気になります。やったことのないものであれば、その子から情報を得るでしょうし、そうすれば学びの機会も広がります。もっと広く捉えれば、文化の伝達・伝承にもなり得るともいえます。

興味をもった子が集まってくると、ケンカが起こることもあるでしょう。しかし、人と人とが関わり合う「相互作用」があるからこそ、相手の気持ちを知ったり、どうしたらうまく一緒に遊べるかを考えたりします。もし自分の「好き」を奪われたらどう感じるのか、反対に相手の邪魔をしたらどうなるのか。泣いたり怒ったりのさまざまな感情を経験し、相手の気持ちも理解していくのだと思います。親はトラブルにならないようにと手を貸したくなりますが、子ども同士がやり取りする機会を尊重していきたいものですね。

「好き」の多様性が広がるほど社会は豊かに

また、子どもたちはそれぞれに、夢中になることが違うというのも大切な点です。チンパンジーは群れで生活をしますが、乳離れをすれば生存に必要なことは基本的に自分でまかなえます。エサを探し、寝床をつくる。むしろ、これができないのは人間だけです。

人間は、ひとりでは生きていけません。だからこそ利他の精神が備わり、こんなにも協力行動が進化したのだともいえます。さらに、同じスキルを持つ人が集まるより、それぞれに得意なことが異なるほうが、交換し助け合うことができます。みんなが同じである必要はありません。「好き」の多様性が広がるほど、この社会は豊かになっていくのだと思います。