MAGAZINEあそびのもり


#フィンランド#探究学習
『World Happiness Report』では8年連続で幸福度世界一に輝くフィンランド。
40年近く前から詰め込み教育を排除し、全国の小中学校で探究型学習を取り入れています。
教科の自由度が高く、先生によってさまざまに創造的な授業が行われている様子をフィンランド教育・福祉スペシャリストのヒルトゥネン久美子さんに聞きました。

ヒルトゥネン久美子氏フィンランド教育/福祉スペシャリスト
フィンランド在住32年。教育、保育、福祉分野を専門とし、通訳、視察、プロジェクトコーディネーターとして日本の研究者や教育関係者にフィンランド視察研究をコーディネート。オンラインセミナーや講座も多数。
フィンランド在住32年。教育、保育、福祉分野を専門とし、通訳、視察、プロジェクトコーディネーターとして日本の研究者や教育関係者にフィンランド視察研究をコーディネート。オンラインセミナーや講座も多数。
小学校の授業は教科横断型。森の中に行けば体育として体を動かしたり、そのことを絵を描けば美術、文章や演劇にすると国語的な活動に……、と教科を自由に横断していきます。日本と同じように、国語は週に何時間、など一応決まってはいるのですが、体育や美術の時間のなかに国語の活動も入ってくるのです。国語も社会も理科も、それぞれに目指すところはあるのですが、それを先生の裁量で一緒の時間に行うことができるんですね。授業を見ていても「これ一体何の時間?」となることも多々あります。
それぞれの教科の目標は日本と同じように定められていますが、ほとんどフレームワークだけ。「こういう力を身につけさせる」ということしか書いてありません。例えば「掛け算ができるようになる」。その手段は先生に委ねられていて、体育の時間のボール遊びや美術の時間の森のどんぐり拾いなどを通して、掛け算を学んでいきます。手段や方法は、先生が子どもたちの様子を見ながら決めていくのです。
先生には自分のクラスの子ども達のことを一番よくわかっているという自負があり、保護者や他のクラスの先生にも、子ども一人ひとりの個性をきちんと説明できる。基本的にクラス替えもないので、1〜6年生まで家族のように一緒に過ごします。
6年間も一緒と聞くと、息苦しく感じるかもしれませんが、例えば「隣のクラスで好評な授業を、このクラスでもやってほしい」みたいな相談も全く失礼じゃない。先生も「やりたいけど不得意だから」と、その授業は隣のクラスの先生にスイッチしたり、とにかくいろんなことを柔軟に工夫します。
子ども達は自分のクラスをホームグラウンドとして、みんなで育っていくので「あの子は少し変わってるところがあるかもしれないけれど、1人で勉強したいから1人であそこにいてもいいんだよ、でも気分がいい時にはみんなと一緒に学ぶよ」など、自然に理解しあっています。

教室の様子。静かに学びたい、複数でわいわいやりたい、床で勉強したいなど、自分にあった方法を選びます。一人ひとりに向いた環境の提供は先生の使命です。
小学校はフルインクルーシブ。助けが必要な子には特別支援の先生が配置され、そのほかにもスクールカウンセラーやサイコロジスト、スクールアシスタント、スクールナースなど、先生以外の専門家の大人がたくさん教室を出入りしています。移民など言葉がわからない子どもたちのために、中国語やアラブ語を話すアシスタントが入ったり、支援が必要な子が多いほど、教室にいる大人の人数も増えていきます。
そういった、教職員ではない専門家の人たちが「生徒福祉チーム」として定期的に会議をして、クラス担任をサポートしています。必要なところに必要な大人が入っているので、クラス担任が全部背負わなくても良いのです。このことは、先生たちがそれぞれクリエイティブな授業をするための大切な土台になっていると思います。

お互いの長所や短所、得意不得意をわかり合い、助け合う。助けが必要なら手厚くサポートする。フィンランドの教室には、多様性やフェアな精神があふれています。
私が、講演会などでお話をさせていただくチャンスがあるとよく話すキーワードが、「ポジティブに諦める」です。どう頑張っても自分に向いていないことや無理なことってありますよね。でも「頑張ります!」ってがむしゃらに取り組むことで、結果、周りの人も助けの手を出せず、「あの人も頑張ってるから私も頑張ろう」と辛い連鎖が続いてしまう。
フィンランド人は、そういった場面に出くわすと、「ごめん私これダメだと思うわ」といさぎよく諦めて、誰か他の人に頼ったり譲ったりします。そういうフィンランド人の姿勢に、ポジティブに諦めていいんだな、ということを学んだのです。
私は福祉や教育が大好きなのですが、物理系の施設、例えば原発の視察はちょっと苦手で、心から楽しんでご案内できない。なので、そういったジャンルの依頼が来た時には「私このレベルまでしかできません」と不得意としていることはきちんと伝えたうえで、責任感を持って他の得意な人にお繋ぎします。「ポジティブな諦め」は何より自分を楽にします。
学校の先生も、課外学習より教科書で教えるのが好きな先生もいれば、とにかく外に出かけていく先生もいます。不得意があっても、他の先生にお願いしたり、チームになって教え合ったりする。他の先生みたいにできないからという理由で評価されることは、ありません。みんなが同じようにできなくていいのです。
その判断をするためにも、自分や他者のことをきちんと理解していることはとても必要です。保育園からそのことについて学んでいるフィンランド人ならではの考え方だと思います。