コラム

世界の子どもたち アメリカ「家族の多様性」

文・ダグラス・ジママン / 写真・中西あゆみ

あそびのもり 2017年 48号より

かつて「人種の坩堝」と呼ばれたアメリカ。最近では「人種のサラダボウル」とも形容されます。多様性とそれぞれの個性を尊重し、溶け合うのではなく共存しているのだと。

今年1月に誕生したトランプ大統領率いるアメリカの行方を、いま世界が注目しています。平等とその多様性が脅かされる発言と政策の数々。現地の子どもたちや教育への影響は? 保護者はどう受けとめているのでしょうか。子育てや教育に対して画一的になりがちな日本に対し、アメリカの家族、親はどうなのか。二大都市サンフランシスコ・ベイエリアとニューヨークで、11の家族を取材しました。

今回は「アメリカの家族の多様性」を7家族の声と11家族の写真でレポートします。

[多様性]
息子は、友だちに、なぜお母さんが2人いるのかたずねません

生後1カ月のエリオットくんを抱くジェンさんと、ミロくん(3)、サンフランシスコ・ヘイト地区のお宅にて。

ミロくん(3)と生後1カ月のエリオットくんとともに、サンフランシスコ市のヘイト地区に暮らすジェンさんと夫のジェームズさんは、この都市の多様性を高く評価しています。文化や民族が異なる人々とどのように接するべきか子どもたちに教える必要性を感じたことがないからです。

「息子は多様性に関して、私たちに質問したことはありません。私たちの親友には子育てするレズビアン・カップルもいますが、彼女たちは真っ向から取り組んでいます。友だちにはなぜお母さんが2人いるのか、息子はたずねません」。ジェームズさんは言います。「サンフランシスコの多様性に触れる機会を子どもに与えることはとても重要です。世の中には、典型的ではない家族がいることが、彼らにとって当たり前になるからです」。

ボビーさんと息子のエメットくん(3)とコルターくん(5)。サンフランシスコのミッション地区にある児童公園にて。

息子のコルターくん(5)とエメットくん(3)とともに、サンフランシスコのミッション地区に暮らす日本人のミユキさんと夫のボビーさんもまた、多様性に関してあえて話し合うことはありません。しかし、トランプ大統領就任以来、公立学校で多様性に関する教育が多く行われるようになっているとミユキさんは言います。

「大統領には不満です。私たちは、このように多様性があるからこそベイエリアに暮らすことができて幸運に感じています。エメットのデイケア担当者はヒスパニック系ですが、6人の子どもたちを公園に連れて行ったとき、白人男性が近づいてきて『この子どもらは全員追い出されるぞ』と言ったそうです。子どもに危害が及ばないか心配だったと。それを聞いて私は本当に怒りを感じました。子どもたちも、聞いているのです」。

[移民]
トランプ氏が大統領に選ばれた日、多くの人が泣いていました

サンリアンドロ・マリーナ公園を散歩するメキシコ人移民一家。息子のイザックくん(16)、娘のエストレラちゃん(8)、ファニィさんと夫のホセさん。

カリフォルニア州オークランド市に暮らすファニィさんと夫のホセさん、息子のイザックくん(16)はメキシコからの合法的な移民です。娘のエストレラちゃん(8)は2008年に米国で生まれました。一家の暮らすメキシコ人街は、低所得で下層階級と呼ばれる地域。子どもたちが通うチャーター・スクールは、独自の教育アプローチをもつ独立した公立学校で、無償で全生徒を受け入れています。

「オークランドは危険な町です。子どもを自由に外出させることができません」。しかし、低コストで教育を受けることができる政府からのサポートには満足しているとファニィさんは言います。「トランプ氏が大統領に選ばれた日、学校では多くの人が泣いていました。今では以前より人種差別が増したと感じます。子どもたちのことがより心配です。これまで自分のコミュニティは安全だと感じていましたが、今はそうではありません」。しかしホセさんは言います。「大統領は変わった人です。でもあまり心配はしていません。自分はただ働いて家族と時間を過ごすだけ。トラブルを起こすわけではないのだから」。

アフリカ系アメリカ人と中国系ハーフのジェニファーさんと、フランス人の夫との間に生まれたレミントンくん(5)とエミルくん(8)。サンフランシスコSOMA地区にあるジェニファーさんのアートスタジオにて。

アフリカ系アメリカ人と中国系ハーフのジェニファーさんは、フランス人の夫エマニュエルさん、息子のエミルくん(8)、レミントンくん(5)とサンフランシスコのポートレロヒルに暮らし、週末はスタジオを借りて絵を描くことに情熱を注ぎます。

子どもたちは多様性とどう向き合っているか。アフリカ系アメリカ人、アジア人、そしてフランス人の混血である子どもたち自身が答えを出すことが大切だとジェニファーさんは言います。「うちの家族の性質上、私たちは非常に多様性があります。普通と違っているという理由で質問してくる人たちへの対処法を、子どもたちに教えています。たとえば、文化の日に学校に食事を持ち込むとき、エチオピアの食事を持って行かせます。みんなからその理由を質問してもらい 『私のお祖父さんは黒人でエチオピア出身です』と、堂々と答えられるようになってもらいたいと思っているからです」。「私は反トランプです。彼が大統領になってこの国は本当に分断されてしまった。でも今、誰もが大胆になっています。彼の考え方に対して憤慨し、言葉を発する準備ができています」。

[文化]
文化的多様性の価値がこのうえなく大切

コロンビア大学で働くジェフリーさんは、平日の午後、職場近くのプレスクールにグレアムくん(4)を、公立学校にジェラードくん(8)を迎えに行く。

ステイシーさんと夫のジェフリーさん、息子のジェラードくん(8)とグレアムくん(4)は、ニューヨーク市マンハッタン区のアッパー・ウエスト・サイドに暮らしています。「息子は2人ともとても社交的で、これは都市に暮らす子どもたちの特長のひとつです。さまざまな文化やあらゆる民族と接しているから、誰とでも気軽に触れ合うことができます」ジェフリーさんは言います。「子どもたちは自分の目で見て、即座にそれが普通だと受け入れるのです。自分たちが住んでいる地域、そして多様性のある都市に住むことで、受ける社会教育が彼らの将来の役に立つでしょう」。

ジェラードくんは選挙に非常に関心をもち、トランプ大統領が表明する多くの論点に反対していると言います。「彼の年令でも、反イスラム、反移民、反同性愛者という言葉を聞くと、彼は振り返って『自分が通っている学校には、他の国から来た子もいれば、両親が外国人の子もいる。お父さんやお母さんが2人いる子もいるけど、彼らはみんなクールだ。反対する理由なんて何もない。僕は彼らを好きだし、みんな僕の友だちだ』と言っています。多様性に接することは素晴らしいと私は思います」。

[アイデンティティ]
自分たちが何かを変えることができると知っている限りそれでいい

両親が経営するブルックリンのウィリアムズバーグで大繁盛しているアイスクリーム店で、アイスクリームを頬張る双子のアレクセイくんとレイラちゃん(5)。

双子のレイラちゃんとアレクセイくん(5)とマンハッタンで暮らすホリデイさんと夫のモハンさんは、ブルックリン区のウィリアムズバーグで大繁盛しているアイクスリーム店のオーナーです。ホリデイさんは中国系、モハンさんはインド系。子どもたちにあえて多様性について教えることはありません。「子どもたちをさまざまな文化に触れさせ、世界の生徒にしたい」ホリデイさんは言います。

「子どもたちは今、社会的意識について教えはじめるのに絶好の年令です。これまでに女性や移民のためのデモ行進に連れて行きました。彼らはこの年令でもなぜ人々がトランプや彼の政策に失望するのかを理解しています。彼らがそうしたことを理解できるよう助けています」 モハンさんは言います。同時に、トランプを支持する人々がいてもそれは悪いことではないということも知って欲しい。2人に望むのは、この世界をより良い場所にするために行動すること。

「子どもたちが、自分たちが何かを変えることができると知っている限り、それでいいのです」。

マンハッタンのシンボルの一つ、クライスラー・ビルを臨める自宅のベランダを見下ろすフォリダさんと息子のグレイソンくん(3)。

フォリダさんと夫のニールさんは息子のグレイソンくん(3)とマンハッタンのミッドタウン地区で暮らしています。「文化的教養を豊かにすることができるこのニューヨークの恵まれた文化的多様性の価値を、私たちはこのうえなく大切に感じています」フォリダさんは言います。

現在の政治環境について、大統領には懸念すべきことが多々ありますが、親が子どもに政治的イデオロギーを吹き込むべきではないとニールさんは考えています。親としての責任は、息子が自分自身で理解できるようにすることだと言います。

「息子は歴代大統領に関心をもっています。私は自由主義論者の傾向が強く根っからの共和党支持者です。トランプは錯乱していると思っていますが、自分の息子にそうしたことは決して言いません。たとえ私が同意できないとしても、世の中には自分自身で考え出さなければならないことがあるのです。彼には、物事の両面を見てから自分自身の意見を決めて欲しいと思っています」。

ランチさんと息子のドレイクくん(7)とデレックくん(5)。オークランドのホアキン・ミラー公園にて。

サンフランシスコのミッション地区で暮らすシアシャちゃん(5)と妹のケイリーちゃん(2)。アートが飾られた2人の部屋にて。

水泳教室がはじまる直前にキスをするジェシカさんと娘のケイティちゃん(8)。マリン群サン・ラフェルにて。

ツイスト・ダンスが大好きな1才9カ月の娘アントニアちゃんとジャッキーさん。ブルックリン区キャロル・ガーデンズのご自宅にて。

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